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物流最前線/日清食品 深井取締役に聞く、課題を価値に変えるSCM戦略

2024/03/25 更新

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世界初の即席麺「チキンラーメン」をはじめ、「カップヌードル」、「完全メシ」と数々のヒット商品を生み出してきた日清食品。物流改革においてもそのパイオニア精神を発揮している。その中心となるのが取締役の深井雅裕サプライチェーン本部長だ。元・営業戦略部長から2019年現職に就任。「物流もマーケティング思想が必要」と、資材調達から生産、物流まで発・着荷主としてSCM全体の戦略立案や、他社との共同輸配送等に果敢に取り組み、フィジカルインターネットセンター(JPIC)理事として業種業界を超えたアライアンスによる社会課題の解決への貢献も推進している。一方、社会が求める企業価値としてWell-being (ウェルビーイング)に着目。それらの実現に向けて、将来の経営幹部の育成を担う社内研修プログラム「NISSIN ACADEMY」学長も務めている。深井取締役に2024年以降の物流の在り方や人材育成について話を聞いた。取材日:2月28日 於:日清食品東京本社

<日清食品東京本社>
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営業戦略部長からSCM統括に
話し合うテーブルが必要

――  深井さんは、もともと営業戦略部長だったとか。いきなり物流・SCMの責任者ということで最初はどうでしたか。

深井  2019年までは物流の「ぶ」の字もやったことがない、素人です。営業時代は、ヘリでも飛行機でも何でもいいから運んでくれ、と言っていたタイプ(笑)。営業としてそれがメーカーの供給責任だと思っていたし、そこにコストが紐づいているとか、物流事業者が苦労をしているとか、プロセスについて考えたことがありませんでした。深く反省しています。だからこそ、様々な業種・業界の方が「こんなことに困っている」というのを、膝詰めで話すテーブルが必要だと感じています。

――  それまで物流事業者と荷主が話し合う機会(テーブル)がなかったのですか。

深井  そうですね。これまでは運べて当たり前でしたので、そのようなものは必要がなかったのだと思います。しかし、社会環境の変化によって消費者の意識は大きく変わってきています。これからは地球環境に優しくとか、人に優しくとか、エシカル消費(倫理的消費)のように、多様化する価値観の中で、価格だけではない要素が求められており、そこに取り組んでいる企業のものしか買わないという時代が来ると思っています。物流に関しても全く同じで、安く運んでくれればいい、ではなくCO2排出量削減や人に優しい労働を考えている企業・物流効率化に取り組む企業に価値を感じて、そんな会社のものを買いたい、取引したいという時代が目前まできていると感じています。私は物流もマーケティングだと思っていて、いかにサプライチェーンで価値を創造し、それを知ってもらい、企業価値の向上につなげるか、という思いが根源にあります。製品づくりも人事部門も総務部門も、何でもマーケティングの思想でやる、というのが弊社の基本的な考え方です。

――  物流もマーケティング、ユニークな考え方ですね。物流改善への取り組みも最先端として知られていますね。

深井  自社保有パレット活用による大幅な積み下ろし時間の短縮や、モーダルシフトによるCO2排出削減を進めています。異業種とのアライアンスも進めており、2022年にはサッポログループ物流と、食品と飲料の共同輸送をスタートしました。往路は両社の製品を積んで、復路は空いた容器やパレットを運ぶラウンド輸送です。これ以外にも多くの企業様との共同輸送が実現していますし、今も多数の企業様と実現に向けて協議を続けています。

<2022年からビールと即席麺で共同輸送を開始>
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――  御社には多くの商品がありますが、やはり季節波動などはありますか。

深井  ご存知のように、年末には「日清のどん兵衛」がスーパーでも特売されていますよね。カップ麺は寒いときによく売れますし、年越しそば需要のように、戦略的に販売促進を行うこともあります。実はチキンラーメンは8月に1番売れます。暑い時期に不思議だと思われるかもしれませんが、理由は簡単で8月25日がチキンラーメンの誕生日で、キャンペンーンを仕掛けるからです。即席麺の需要期である冬に合わせて新商品を発売したりキャンペーンを行うので、さらに波動が大きくなる傾向があります。

そこで、夏季が需要期で、重量のあるビールと冬季が需要期で軽量物の即席麺を組み合せることで季節波動を吸収する取り組みを進めています。この取り組みは、重軽の組み合わせで重量と容積率と積載率ともに最大化できることで、車両とCO2排出において20%程度の削減ができたことに加え、コストも削減できるなど様々なメリットが出ています。

――  メーカーなので調達物流もありますね。

深井  そうですね。調達物流では、資材サプライヤーに4か月先までの生産計画を開示したり、会計連携による受け払いの自動化をしたりするなど、データ連携による効率化を進めています。調達物流に関しては今まで工場現場が日々の発注を行っており、資材部・SCM部がほとんど関与していなかったのですが、製品物流も調達物流も課題は共通しています。具体的には、現在は業務プロセスとコスト、実運送を可視化し、取引条件・契約を見直し、柔軟な発注・納品による調達物流の効率化ができるよう改革を進めています。

―― 2023年10月からJA全農と原料調達・製品輸送で共同輸送を開始していますね。

深井  日清食品のカップ麺やカップライス製品 と、米穀の共同輸送をすることでサプライチェーンの効率化を進めています。現在、岩手~茨城間と福岡~山口間の2つのルートでスタートし、週2回共同輸送を行っていますが、今後順次ルートを拡大していく計画です。

<岩手~茨城間の共同輸送>
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<福岡~山口間の共同輸送>
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深井  これにより、岩手~茨城間ではトラック1台あたりの実車率が12%高まり、福岡~山口間ではドライバーの拘束時間が約7%削減するなどの効果が出ています。パレットなどの物流資材についても一部区間で製品と一緒に輸送することで、トラックの積載率が約9%向上し、CO2排出量も約17%削減しています。また、工場へお米を納品頂いたトラックの帰り便に当社の製品を積んで頂く取り組みも始まっており、共同輸送のオペレーションが確立されたことで、これら他のルートや共同でのモーダルシフトへの拡大に弾みがつくと感じています。

――  2024年以降、の問題についてはどう考えていますか。

深井  今回のタイミングで改革できなかったら、もうサプライチェーンの改革はできないでしょう。行政の予測によると2030年には34%の荷物が運べなくなります。それは、3割の人がモノを手に入れられなくなるということを意味します。そもそも製品だけでなく資材も運べなくなりますので、メーカーは資材調達ができなくなり生産ができなくなってしまいます。この問題は全ての事業者にとってコストアップ以上に非常に大きな課題になります。34%荷物が運べないと、シンプルに売り上げが34%落ちる可能性があるということですから。

デジタル化で物流を開放
物流は企業の大きな戦略となる

<フィジカルインターネットセンター理事も務める深井取締役>
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――  日清食品では海外との取引も多いと思いますが、どう取り組んでいきますか。

深井  海外との取引において、物流は大きな経営課題です。特に、弊社は資材の多くを海外から調達しています。そのデリバリーも含めて海外から資材が入ってこなければ、何もつくれません。フィジカルインターネットの概念を事業会社日清食品社長の安藤徳隆に説明したときも、「なんでもやろう!面白いことをやろう!」と言っていて、「他の会社がやらないならうちがやろう、それはチャンスだよ!」と。トップがそういう考えなので、難しいとは思いますし、すぐに実現できないかもしれませんが、いまはフィジカルインターネットがゴールの1つだと考えています。仮に、取り組んでいく過程で事情が変わっていったとしても、きっと何か新しいものが見えてくるはず。物流の素人だからこそ、いろいろな人に話を聞いて勉強しなければならないと思っていますし、今の物流にはチャンスしかないと思っています。

――  フィジカルインターネットが実現し、物流がインターネットのように共有のインフラとなった場合、各々の物流事業者の特徴はどこで出せばいいのでしょうか。

深井  物流品質ですね。例えばAmazonでは朝、電車のなかで注文したものが、家に帰るともう届いている。でも本を3冊買ってもすぐに読めないので、2冊は別に1週間後でもいいわけです。1週間後に届いて5%引きだったらそちらを選ぶ人がいるかもしれませんし、宅配便で言うと受取方法も置き配やロッカーなどいろいろありますよね。物流事業は今後アセットと仕組みが分離することなど、多様な事業形態の事業者から多様なサービスが出てくる可能性があると思います。早いのもハッピーかもしれませんが、急がないものであればオプションで選べる、ダイナミックプライシング的な物流サービスが出てくれば皆がハッピーだと思います。今は個人がデジタル上で新幹線も飛行機も、映画だって座席が選べる時代。やはりデジタル化・可視化が進んでいないが故の現状な気がしています。デジタル化や業務プロセスの標準化が進めば、様々な組み合わせによる差別化された物流サービスが出てくるのではないでしょうか。

――  日清食品ではデジタル化をどう進めているのですか。

深井  特にコロナ禍でデジタル化が進展しました。弊社はここ数年、構造改革を進めていて、全国の営業拠点8か所(北海道・東北・東京・中部・大阪・中国・四国・九州)の受注業務を東西2か所に集約しました。受注に関しては、多くの卸業者様から日々オーダーがあり、その処理は部門間の調整など多くの業務プロセスがあります。これまでは対面でのコミュニケーションが必要だと考えてきましたが、コロナ禍で出社制限をせざるを得なくなったのを契機に、全国2か所から、さらに一歩考えを進めて全て在宅ワークで処理ができる仕組みに変えました。今では基本的に100%在宅で受注できるようになり、出社と在宅のハイブリッド型勤務により生産性が飛躍的に向上しています。DXで場所からの解放ができたので、「時間からの解放」が次のテーマです。

――  「時間からの解放」とは。

深井  卸店様や小売業様と、需要予測や販売データの共有化による効率化の実証実験を進めています。それができればサプライチェーン全体での自動発注ができる。そうすると、我々も卸業者様も、受発注に関して手作業がなくなり、労働時間を劇的に削減できると考えています。双方の歩み寄りがないと、なかなかできないのですが、2024年問題のなかで各プレーヤーが本当に「変わろう」という動きが出てきていると感じています。

――  物流危機に対し、例えば自社で物流子会社を持つという考えはありますか。

深井  ないですね。いろいろなメーカー様と共同輸送しているなかで、個社で物流アセットを抱えることにはリスクしかないと思っています。例えば12月は6月の2倍の物量が動きますが、その波動は我々だけでは吸収できない。繁忙期に合わせて維持してしまうと、空いたところはコスト負担になります。倉庫しかり、トラックしかり、自社でアセットを持つメリットは全くありません。フィジカルインターネットのように、他社の荷物と組み合わせて積載率を上げるとか、季節波動が違うところを組み合わせるとか、いろいろな業種・業界を超えた方々の荷物を運ぶからこそ効率化を実現できると考えています。ただし3PL事業者にすべてを委託するように完全にノウハウを外に出すのもリスクがあると考えていますので、そこは我々もコントロールしながら、いかに仲間を集めていくかが唯一生き残れる方法ではないかと思っています。

――  共同輸送を進めていくうえで、企業間の連携はどうすれば進展すると考えますか。

深井  まずは個々の企業の中のいろいろな部門を横断した改革が進み、そのなかで、法律で義務づけられることになる各社のCLO(物流統括責任者)が業種業界を超えて情報交換し、課題認識が経営課題になった時に、フィジカルインターネットのような究極の共同輸送が実現されると思います。CLOの設置はとても画期的で、フィジカルインターネットセンター(JPIC)※が、その業種・業界を超えた話し合いができるテーブルになればよいと思っています。

――  深井さんの描くCLO像とは。

深井  現在の物流というと、喫緊の「運べるか運べないか」や、コストだけに着目している企業が多いように思っています。未来をつくる、事業を支えるサプライチェーン構築は経営上の大きな戦略になりますよね。もう一つ、社会課題解決への貢献として、CO2排出量削減や働き方の問題を解決し、人にも地球にも優しい物流をつくるという視点が必要だと思います。これからCLO協議会のような組織ができて、CLOが業種・業界を超えていろいろなアイデアを出し合うことで、物流の未来もどんどん変わっていくと思います。誰かが欲しいときに欲しいものが手に入れられる仕組みづくりは大切ですが、それを維持しながら、地球環境にも優しくなければいけないし、そこで働く事業者全てがハッピーでなくてはいけない。まさに私がやっているWell-being(ウェルビーイング)、みんなのWell-beingのためにどうあるかの、一つの仕組みがサプライチェーンだと考えています。

※フィジカルインターネットセンター(JPIC):フィジカルインターネットの実現により、物流の安定供給と環境負荷の削減に貢献することを目的に設立された一般社団法人。

時代はWell-beingへ
人を育てチームで戦いたい

<物流も人、と深井取締役>
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――  深井さんはWell-being推進部長も兼任していますね。その理由は。

深井  弊社の社長も常に「仕事を楽しむのも仕事」と言っていて、やはり皆が楽しくなければ駄目だと私も思っています。私は入社35年目ぐらいですが、今が入社以来一番仕事が楽しい。以前は若干、チームメンバーのためにカッコつけて言っていたのですが、今は本当に楽しくて仕方がない。というのも社内外に仲間が増えましたし、やることが満載で、今まで誰も成功してないわけですから、伸び代しかない。物流も多分、「荷主が」とか「物流事業者が」ではなく、社会全体のWell-beingのためにどうあるべきかと考えていくと、自ずと答えは1つではなく、いろいろと出てくるのではないかという気がします。

――  物流にも枠を超えた考え方、Well-beingな思考が必要ということですね。

深井  それは必要だと思いますね。10年前、今の世界は想像できなかったし、たった10年でこれだけ変わっていて、何に価値を感じるかも時代とともに変わっていく。物流って、その新しい価値をつくる1つの重要な仕掛けだと思います。物流も人ですよ。やはり人をつくらないと、物流改革なんてできません。

――  日清食品ではどのように人材を育成しているのですか。

深井  実は私、SCM統括と兼務してWell-being推進担当であり、「NISSIN ACADEMY」の学長でもあります。もともと人材育成は人事部が担ってきましたが、事業戦略のゴールに向けてどんな人材が必要かというのは、事業部サイドでないと分からないこともあり、営業戦略部時代から研修を担当していたんです。その流れで「NISSIN ACADEMY」では、営業人材やマーケィング人材、SCM人材とは?というところからパッケージをつくり、それぞれの専門コースとそれを卒業した社員向けの経営者アカデミーのような講座を定期開催しています。

――  「NISSIN ACADEMY」は誰でも参加できるのですか。

深井  選抜講座というのは基本的に各部署の上長からの推薦が必要ですが、公開講座は誰でも参加できます。公開講座には毎回、何百人も参加します。物流も人です。やはり人を育成しないと物流改革はできません。しかもサプライチェーンマネジメントは、物流だけでなくシステムや財務、人事など幅広い知識の集大成です。それぞれの専門家になる必要はないと思いますが、ある程度、俯瞰でものが見られるような人材が物流系の経営幹部として必要だと思います。

――  海外では物流出身の社長は結構いるようですね。

深井  そうですね。Amazonやウォルマートも物流出身と聞いています。当社の米国法人ではバイスプレジデントが担当しています。サプライチェーン担当兼副社長という位置付けです。

――  物流部門は大変な時期ですが、ストレス等はたまりませんか。

深井  ストレスはないと言ったら嘘になりますが、どんな時でも前向きにいるようにしています。社内外にいろいろサポートしてもらえる人がたくさんいますし、経営トップや役員メンバーからのサポートもあるので、ストレスも皆でシェアしています(笑)。人の育成もそうなのですが、映画『アベンジャーズ』のようにチームで戦いたいと思っています。

――  プライベートで趣味というと。

井  料理ぐらいですね。炒め物はよくやります。最近はやっていませんが、パスタも自分で打ったり、餃子も皮からつくったり凝り性なんです。一時期、麻婆豆腐にはまって調味料を買い込んだり、毎週麻婆豆腐をつくって妻にものすごく怒られたり(笑)。でも、作って食べて美味しいって一石二鳥ですし、美味しいと言ってくれると報われる。それ趣味ですよね(笑)

――  サプライチェーン統括の意外な一面ですね。ありがとうございました。

取材・執筆 近藤照美 山内公雄

<東京本社前にて、深井取締役>

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■プロフィール
深井雅裕(ふかい まさひろ)
日清食品 取締役 サプライチェーン本部長兼Well-being推進部長
1989年 日清食品入社
低温事業部営業課、チルド食品事業部マーケティング部門、営業本部などを経て
2012年 日清食品タイ現地法人社長
2015年 日清食品営業戦略部部長
2019年より現職